【コラム】司法書士物語 第一話 「詐害行為」堀内信大

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司法書士 堀内信大

司法書士 堀内信大

認定司法書士。港北司法書士事務所の事業者。認定番号 第943031号。債務整理、債権回収、不動産登記及び商業登記など幅広い分野に精通する。近年は高齢者による後見、相続、遺言に関する相談が急増しており、日々の大半を遺産分割協議など遺産相続に関する対応に注力している。 ホームページ: http://horiuchi-js-office.com

認定司法書士の堀内信大です。日々の生活や会社経営にかかわる様々な出来事に関わる司法書士の仕事を、コラムというかたちを通じてお伝えしていこうと思います。今回のテーマは、詐害行為について。

詐害行為

㈲栄三建築は、資本金300万円、従業員5名、年商1億円内外のサッシ工事会社。代表の福山慎一が斯業経験を積み会社を興したのは弱冠26歳の時だった。30歳の時、現在の妻陽子と結婚し、二人三脚でこの小さな会社を維持してきた。しかし、業界全体を取り巻く経営環境は年々悪化し、弱小業者である㈲栄三建工は次第に追いつめられていった。

日毎に寒さが身にしみてきた11月のある日、福山は遂に、資材納入業者や下請業者等の主要債権者5社の担当者を招き、所謂、債権者会議を開くことになった。議題は、今月末に支払うべき手形合計1,500万円の満期延期のための書替え要請、というよりも懇願である。

「いや、それはないですよ。コッチだって、その金を支払いに回すんだから―」

「同じですよ、社長。今はどこも苦しいんだから。お宅の事情だけ聞いてたらワタシラやっていけませんよ。」

応接室に集まった5社の担当者は、到底、納得しそうもない。

当然だ

当然だ。㈲栄三建築から呼び出しを受けた時点で、話の内容は大方予測出来ていたから、それぞれの会社で対策会議を開き、申し出を断るようにとの結論が出ていたのである。「皆様、どうか私の方の差し迫った事情をご理解ください。そのかわりと言ってはナンですが、私、福山慎一自身が連帯保証することをお約束いたします。」福山社長のこの言葉が会議の流れを変えた。

全員が、それならばと承知したのである。

その後、㈲栄三建工所有の不動産を売却して一部の弁済に充てたが、肝腎の業績は好転しなかった。一方、福山の妻陽子は一応会社の取締役になっていた。彼女はとにかく働き者であった。結婚以来15年、夫の仕事に積極的に協力し、注文取りや取引先の接待などに従事したほか、自らトラックやブルドーザーまで運転し、産業廃棄物や残土処理を請負い会社の業績向上に貢献してきた。しかし、いくら働いて少しずつ資産を増やしても次々と担保に取られ、一部は債務弁済のために売却されてしまう有様を見ては、さすがに将来の生活に不安を覚える。このままでは4人の子供たちの養育すら心配である。何か残しておきたいと切実に思うようになった。深夜、すっかり意気消沈しヤル気も喪失した福山が台所の椅子に座って酒を飲んでいた。そんな彼に妻陽子が強い口調で言った。

酒を飲んでも解決にはならない

「お酒飲んでも何の解決にもならないわ。とにかく、私や子供たちのために幾らかでも残してください

福山も妻の言い分はもっともだと思った。

長年、会社の為に苦労し、しかも、自分の度重なる浮気にも心を悩ましてきた。何かを残してやりたい。だが、そんな事は不可能だとも思った。そんな事ができるのなら、倒産する会社はみんな財産隠しをやる筈なのだ。それは、計画倒産と罵倒され、法律上も罪になる筈なのだ。

思い悩んだ福山は、まず、離婚を決意した。そして、以前、法人化した時にお世話になった「佐賀司法書士事務所」のドアを開けたのである。福山の依頼を請けた佐賀司法書士は直ちに行動した。離婚した福山は、陽子に財産分与として一部の不動産を陽子名義にした。協議離婚届が出され、財産分与を原因とする所有権移転登記が行われた。

対象の不動産は5件程あるうちの一つであったが、資産全体の3分の1をやや上回る程度のものだった。その後、㈲栄三建築は不渡手形を出して倒産した。債権者らはその不誠実に憤慨し、陽子に対する財産分与が債権者に対する詐害行為であると主張し、その取消しと登記を求める訴訟を起こした。

しかし、裁判所は詐害行為でないと判決した

*注)事件当時の法律に基づきます。

ワンポイントアドバイス

堀内信大先生
※この判決は、債権者にとっては大いに不満だと思います。債権者を害する債務者の法律行為を詐害行為といいますが、これは、結婚・離婚・縁組・相続放棄等、財産権を目的としない身分行為は含まれません。離婚に伴う財産分与は、離婚という身分行為に伴うものですが、実際には直接財産権を目的とする行為であり、世間では時として財産隠し、執行逃れの手段に悪用する例もありますから、詐害行為とみなされた判例もあります。しかし、この福山夫妻の場合、妻陽子さんの結婚生活中の貢献度、離婚原因に福山氏の数年来の不貞行為も原因であること、4人の子供は陽子さんが引き取り養育することになっていること等の事情から、3分の1の不動産を取得しても、不当な財産処分とは到底認められない、と裁判所は判断したのです。

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