【コラム】司法書士物語 第四話 「取扱厳重注意-「公正証書」-について」堀内信大

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司法書士 堀内信大

司法書士 堀内信大

認定司法書士。港北司法書士事務所の事業者。認定番号 第943031号。債務整理、債権回収、不動産登記及び商業登記など幅広い分野に精通する。近年は高齢者による後見、相続、遺言に関する相談が急増しており、日々の大半を遺産分割協議など遺産相続に関する対応に注力している。 ホームページ: http://horiuchi-js-office.com
認定司法書士の堀内信大です。日々の生活や会社経営にかかわる様々な出来事に関わる司法書士の仕事を、コラムというかたちを通じてお伝えしていこうと思います。今回のテーマは、公正証書について。

千葉県A市の㈲田村運輸は、大手運送会社の下請主体に頑張っている小規模な運送業者である。代表の田村秀昭氏自ら2トントラックに乗り、時には関西方面まで出張していた。資本金は300万円、会社創業は5年前である。この頃ようやく受注が安定してきた。商売として軌道に乗ってきたのである。
実は、田村には夢があった。コーヒー専門店を自分で持ちたかったのだ。でも、人の出入りが激しく騒がしく落ち着かない今風のコーヒー店は大嫌いだった。30年近く前、付き合っていた彼女と何度も通った喫茶店のような静かで上品な、都会のオアシスのようなお店をどうしても開きたかった。
やがてその夢は実現した。田村の理想にかなり近い喫茶店を開業することになった。喫茶店を開くのに必要な「食品衛生責任者講習会」を受講した。設備機器に意外な出費あったから、この時点で、1,000万円程度の資金がかかった。ここまできたら、夢とか甘い事は後回しで、商売として後に引けなくなっていた。
しかし、最後の最後でどうしても500万円くらいの運転資金が足りなくなった。店舗の内外装はすっかり終わっているのに開業がストップしてしまい、チョット外聞も悪い。会社のデスクで考え込んでいた時、ふらっとゴルフ友達の山田二郎が顔を出した。彼は外車のディラーで羽振りも良く、ゴルフ場ではマジェスティプレステジオで優雅にプレイをしていた。
「何だ、そんなことならおれが貸してやるよ。どうせ遊ばせている金なんだ。遠慮はいらん。」と気軽に言ってくれた。
「そりゃ、助かるよ!ホント、早く開業しないと変な評判がたち、本業の運送業にまで影響が出てしまったら洒落になんないからね。助かる!!」
田村は山田の申し出に飛び付いた。翌日、山田の事務所で500万円の現金を受け取った。
「じゃあ、借用証をかくよ。」
「借用証?水臭いこと言うな。おれとおまえの仲じゃないか」と山田は上機嫌である。暫くゴルフ談議に花を咲かせた後、田村がもう一度念をおした。
「借用証はヤッパリ書いとかないとマズイんじゃない?」
「それじゃあ形式張ったことは俺も嫌いな性質なんだが、一応、書面だけはつくらせてもらおか?」
「それはもう当然だよ。500万円だし。」
「マァおまえがそれで気が済むんなら…」
にこやかに微笑みながら山田は田村から実印を受け取り、自分の机の上の書類に印をついた。田村は心の底で、こんな良い奴はいないと感謝しながら、500万円を持って帰宅した。ところが、その山田は良い奴ではなくとんでもない悪魔だったのだ。
田村の喫茶店は比較的順調に売上げを伸ばしていった。
彼の妻が店のレジにたち、アルバイトの若い女の子をしっかりと監督していたから、ネットの口コミで感じが良い店との評価も受けていた。
そんな矢先、突然、裁判所から執行官がやってきた。そして、有無を言わせず、お店のクーラー・ステレオ・什器備品一切を差押えてしまった。この騒ぎで店の客は逃げ出してしまい、田村の妻とバイト2人はただ呆然としていた。
真相はこうだ。山田は田村の実印を使って、田村名義の公正証書作成の委任状をつくりあげ、知り合いの男を田村の代理人に仕立てて、公証人役場で、「金が返せない時は強制執行をうけても異議がありません」という約款のついた公正証書を作成していたのだ。
この公正証書は普通の借用証などと違って、「判決」と同様の執行力をもつのだ。しかも、借りた金は2,000万円と大きく水増しされ、返済期限は3ヶ月後となっていた。
田村は真っ青になって佐賀司法書士事務所に飛び込んできた。喚き立てるように事態を訴えた。

しかし、佐賀司法書士は、それが偽りの公正証書であることを裁判官に納得させるのは難しいと思った。山田が田村に手渡したのは現金なのだ。銀行を通じて取立てる小切手と違って、金額の点で証拠が残らない。返済期限や利息についても、客観的証拠は何もない。法廷では田村と山田の水掛け論に終わるおそれが多分にあるのだ。

ワンポイントアドバイス

堀内信大先生
※この種の事件は多発している。対抗するには、まず、裁判所で強制執行停止の決定をしてもらうしかないが、費用も日数もかかり、しかも証拠がなくてはかなり難しい。このような事態になる前に、公正証書というものをしっかり知っておくべきだ。公正証書で金を借りる時は、必ず、自分自身が公証人役場に出頭することで、よく分からなければ、司法書士に是非とも立ち会って貰うべきである。そういうことが気軽に相談できるのが司法書士という街の法律家なのである。

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