【コラム】司法書士物語 第八話 「私道の所有権移転 第①話」堀内信大

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司法書士 堀内信大

司法書士 堀内信大

認定司法書士。港北司法書士事務所の事業者。認定番号 第943031号。債務整理、債権回収、不動産登記及び商業登記など幅広い分野に精通する。近年は高齢者による後見、相続、遺言に関する相談が急増しており、日々の大半を遺産分割協議など遺産相続に関する対応に注力している。 ホームページ: http://horiuchi-js-office.com

認定司法書士の堀内信大です。日々の生活や会社経営にかかわる様々な出来事に関わる司法書士の仕事を、コラムというかたちを通じてお伝えしていこうと思います。今回のテーマは、私道の所有権移転について。

私道の所有権移転 第①話

大北設計㈱(資本金1,000万円、社員5名、年商8,000万円内外、代表 大北征男氏)は、大北社長が学卒後、東京の設計事務所にて斯業経験を積み、30歳の時創業したもの。建築設計管理を主体業務に受注の80%が官公庁で、企業としては小規模零細ながらも財務内容は安定推移していた。

4月の某日、その大北征男氏が佐賀司法書士事務所にやってきた。その日は、佐賀司法書士は不在だったので、有資格者の高広と補助者の佐々藤が応対した。

「八王子の高台にある古い8区画の住宅地があるんですが、今度、その住宅の一戸の所有者が家の建て替えをすることになったんですよ。その人から頼まれて私が役場の建築指導課へ事前打ち合せに行きましたが、私道の所有権が他人名義になってて、建築基準法上、家は建てられないということが判ったんです。自分の住宅の建て直しも出来ないとなって、依頼主はかなりのショックで青くなってましたよ。」

さらに大北氏は、問題の私道を調査した。その結果、私道は元売主・建設業「㈱山田工務店」の所有になっていたのだ。そして山田工務店は私道を含めて分譲しその代金を受領しており、これは8区画の購入者と売主山田工務店の不動産売買契約書で明らかだった。つまり、この一件は8名の買主への私道部分の所有権移転登記洩れということになる。

「私道は、8名の人々の所有物であることは完全にはっきりしたのですが、所有名義人として残っている山田工務店はその所在地になかったんですよ。移転したのか、チョット私にはこれ以上はどうしようもなくてご相談に参りました。」

大北氏は、そう言いながら頭をかき項垂れた。

「分かりました。早速、動いて見ましょう!」

高広は、補助者の佐々藤に指示して法務局に行かせ、㈱山田工務店の登記簿謄本を取り寄せてみたら解散登記がなされていた。清算人には当時の代表取締役であった山田太郎が就任している。だが、この山田太郎の居所がわからない。登記簿上の清算人の住所まで行ってみたがない。佐々藤は体重100㎏の巨漢だ。大汗をかきながら、その近辺を何軒も尋ねて、山田太郞の所在を聞いてみたが誰も知らなかった。

佐々藤は事務所に戻り、息せき切って何杯もコーラを飲みながら顛末を報告した。その様子にフッと噴きだしながら、高広は改めて私道の登記簿謄本を見た。それには極度額一億円の根抵当権が登記されている。これはこの私道が共同担保中の一筆を構成していることを物語る。さらに、この根抵当権者が破綻銀行で債権は株式会社整理回収機構に譲渡されている。
「よし、佐々藤君、今度はこの会社整理回収機構に出向いてみよう。」
「え!!い、今から直ぐですか?」
「大丈夫、大丈夫、君の健康のためでもあるよ、オレも付き合うから、さぁ、行くぞ!」
「はぁ…、わかりました…」

佐々藤はウンザリしたような表情で、どっかりと座っていた椅子から立ち上がった。整理回収機構を訪ねていった所、思わぬ収穫があった。破綻銀行の当時の担当行員がいたのだ。その行員の話では、清算人山田太郎は千葉に引っ越していた。これで、まず、もつれた糸の一口がみつかった。高広が破綻銀行の担当行員を介して、千葉に居住する清算人山田太郎に連絡をとり交渉すると、案ずるより生むが易し。意外にあっさりと、私道の所有権は8区画のそれぞれの住民に各八分の一ずつあることを認め、所有権移転登記には事務経費程度の支払いで応じると返答してくれたのだが、随分と以前の分譲地だから、私道の権利書は紛失したらしい。

このような場合、10年程度前は少し複雑で日数のかかる方法でいわゆる保証書を申請していたが、今は、当事者にとってはかなり利用しやすい制度に変更されている。高広は、これには二つの方法があることを電話で説明した。
「山田さんの方で、登記申請書に権利書を付けられなかったこと及びその理由を書いて申請して下さい。

そしたら、アナタの住所に登記所からの本人限定受取郵便が届きます。『事前通知制度』と呼ばれるもので、この事前通知に添付されている『回答書』に実印を押印して登記所に申し出ることにより、登記識別情報を提供しなかったことを補うのです。ただ、この方法の場合、期限とかがあり注意しなければいけないのですが。」

―先生、私にはサッパリ分かりません、何とか、先生にお願いできませんでしょうか?…

電話の向こうから、山田太郞の不安気な声が伝わってくる。高広は、もう一つの『資格者代理人による本人確認情報』という方法を取ることにした。これは、司法書士等の代理人が、本人と面談して事情を聴き、各種書証の提示を受けてその本人性を確認し「この不動産はこの人の所有で間違いありません」という旨の書類を登記申請書に添付するという非常に厳格な方法だ。これで、登記済証が滅失した件は何とか解決したのだが―

**続く

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