【コラム】司法書士物語 第十二話 「不動産売買のトラブル」堀内信大

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司法書士 堀内信大

司法書士 堀内信大

認定司法書士。港北司法書士事務所の事業者。認定番号 第943031号。債務整理、債権回収、不動産登記及び商業登記など幅広い分野に精通する。近年は高齢者による後見、相続、遺言に関する相談が急増しており、日々の大半を遺産分割協議など遺産相続に関する対応に注力している。 ホームページ: http://horiuchi-js-office.com

認定司法書士の堀内信大です。日々の生活や会社経営にかかわる様々な出来事に関わる司法書士の仕事を、コラムというかたちを通じてお伝えしていこうと思います。今回のテーマは、不動産売買のトラブルについて。

不動産売買のトラブル

「株式会社旭は(資本金1000万円、従業員6名)」は、昭和30年4月創業、同44年8月設立した
食品機械の販売業者である。代表の小林幸司は8年前の45歳の時、実父で創業者の幸一から二代目を受け継いでいた。年商1億2,000万円内外、経営は順風満帆、40坪の2階建ての自宅には三代目候補の長男が妻子と共に同居していた。4月の某日。
長男が、居間で寛いでいた小林氏の横に座った。「オヤジ、ちょっといい?」
「ん?なんだ、あらたまって…」
「実は、女房に二人目ができたんよ。」

長男はそう言うと頭を掻いて下を向いている。暫く待ったが次の言葉がナカナカ出てこない。

「それは、お前、良い事じゃないか!なぁ!何も、そんな困ったような顔しなくても―」
「いや、オヤジ!それが困ってるんだ…」
「ハハハ!お祝い事じゃないか、困ることはないよ。」
「違うんだ、実は、子供は一人じゃないんだ!」
「…ん?」
「双子なんだよ、双子!」
「双子?双子なのか?オオッ!!やっぱり、お祝い事じゃないか!そうか、そうか、そりゃ良
かった!良かった!」

小林氏は興奮して思わず27歳の息子に抱きついてしまった。
「チョチョ、止せよオヤジ!まぁ、落ち着いて聞いてくれよ。」
「うん、うん、ナンダ?どうした?どうした?」
「3年前、女房のお父さんが亡くなったよね。」
「そうだよなぁ…オレより5つ上だったから、亡くなった時は55歳、若すぎるよなぁ…」
「知っての通り、女房は一人っ子だったから、お母さんはそれからずっとマンション借りて一人で暮らしてる。」
「うん。何度もコッチでと言っても頑なだからなぁ…」
「それも今まで色々と考えてたんだけどね。でも、今度、上の子供がまだ二つなのに双子ができて、女房の負担を思うと、どうしてもお母さんの助けがいるんだ。」
「そりゃ、そうだ。お母さんにコッチに来て貰うのが一番良いんだがな―」

60年近くにもなる老朽化した自宅を更地にでもして売却し、郊外に広い土地を購入し、そこに二世帯住宅を建てる事にした。

小林氏は、ネットで検索し評判の良い会社に連絡をして売買を申し込んだ。取引自体はトントン拍子に進み、先月手付契約を済ませ残金決済は10日後となった。

ところが、昨日、その不動産から『登記書類がなければ決済できないので、書類を先に預からしてほしい』と要求されたのである。

佐賀司法書士事務所を訪問し㈱旭の小林社長は困惑していた。

「…というような経緯なんですが、先生、私は残金をもらっていないのに登記書類を先に渡さなければいけないものなのでしょうか?」

和やかに微笑みながら、佐賀司法書士事務所の佐賀所長は、「先ずは、社長、御目出度う御座います。ホント、羨ましい限りです。」

今年60歳になる佐賀所長にも嫁いだ娘がいるのだが、結婚4年目なのに子供ができない。

「あー、有り難う御座います。で、先生、先方の事情もありますから、ここは先に書類を渡すべきなんですかねぇ?」

買主の不動産業者は転売を目的として買い取っており、小林氏に支払う金には自己資金が都合つかないため転売金を充当しようとしていたのである。

従って予定どおり転売できなければ決済も延期されるかもしれないこと等が容易に推測される。その意味では慎重さが要求される取引なのである。

しかし、佐賀所長に躊躇いはなかった。

「その不動産業者の要求は自分の都合だけの身勝手なものですよ。実は、残金支払前に登記書類を渡すのはコチラにとっては危険であり、不公平な契約といえます。『残金と同時であればいつでも渡します。よ』って、毅然として言って下さい。それを拒むような業者とは取引をしないことですよ。」

小林社長の表情がみるみる明るく輝き始めた。

ワンポイントアドバイス

堀内信大先生
※一般に、売買などの双務契約では、当事者双方がお互いに対等の義務を負うという関係にあります。買主には代金の支払義務、一方の売主には商品の引渡義務があるというわけです。この義務の実行について法は、原則として同時に実行されるべきだと規定しました。一番公平だからです。つまり、売主は代金の支払がない限り商品の引渡しを拒むことができ、買主は商品の引渡しがない限り代金の支払を拒むことができるということです。これを「同時履行の抗弁権」といいます。そこで、同時履行確保のため、通常は司法書士が取引の場に立ち会うというのが実務の慣行となっているのです。

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